マストタンクのシリアルナンバーと製造年式について

マストタンクは、カルティエの中でも近年に再注目されている人気モデルの一つですが、製造年式が1976年頃〜2004年頃(※2004年はクリスマス限定モデルのみ発売)までと幅広く、またシリアルナンバーの刻印形式に仕様変遷が確認されていることから、現時点ではシリアルナンバーから時計の正確な製造年を判別することが難しく、研究の余地を残した分野となっています。
私たちANTIQURIOUSでは、過去450本を超えるマストタンクのお取り扱い経験から、おおよその製造年式が推察できる幾つかのディテールを発見いたしました。
以下では、マストタンクのシリアルナンバーの規則性と、それらがどのように年式と関連しているかを編纂し、詳しく解説してまいります。
シリアルナンバーの変遷
マストタンクのシリアルナンバーには、大きく分けて4つの形式が存在しています。
- 1976年頃〜1981年頃 手巻きキャリバー期
- 1982年頃〜1995年頃 クォーツキャリバー期
- 1996年頃〜1998年頃 クォーツキャリバー期
- 1999年頃〜2003年頃 クォーツキャリバー期、生産最終期
1976年頃〜1981年頃 手巻きキャリバー期
SMサイズは「3」、LMサイズは「6」から始まる合計7桁の数字、おそらく通し番号

1982年頃〜1995年頃 クォーツキャリバー期
合計5桁〜6桁の数字、おそらく通し番号
※この時期はモデル番号の形式も2種類存在し、なおかつ混在しています。

例)SMサイズは「3 66001」、LMサイズは「6 81006」のモデル番号
こちらのモデル番号の場合、六角形状の小さなリューズ(※)が採用されており、シリアルナンバーが6桁(10万台)となるおおよそ1990年頃に下記の「5〜」系統のモデル番号へ統合されるものと思われます。
(※後年のオーバーホール時にリューズが交換されている個体も見受けられ、現在のカルティエ・コンプリートサービスを利用した場合にも、後述する“真珠状の装飾が入ったリューズ”に交換となります。)

例)SMサイズは「5057001」、LMサイズは「590005」のモデル番号
これらのモデル番号の場合、真珠状の装飾が入ったリューズが採用されています。
1996年頃〜1998年頃 クォーツキャリバー期
先頭に「CC」の文字を含む、合計7桁〜8桁の英数字、おそらく通し番号

ヴェルメイユ・ケース
モデル番号は、SMサイズのヴェルメイユ・ケースが「1613」、シルバー・ケースが「1614」、LMサイズのヴェルメイユ・ケースが「1615」、シルバー・ケースが「1616」に変更されています。
なお1997年はカルティエの創業150周年にあたるため、ブランドとしての節目に伴うマイナーチェンジだった可能性があります。
1999年頃〜2003年頃 クォーツキャリバー期、生産最終期
末尾に「P L」または「CC」の文字を含む、合計7桁〜8桁の英数字、おそらく通し番号

ヴェルメイユ・ケース
1999年、ミレニアム・イヤーを目前にして、マストタンクは最も大きな仕様変更を遂げました。
それはケースサイズの変更です。従来のSMサイズが、現在で言うところの「MMサイズ」、従来のLMサイズが、現在で言うところの「GM(XL)サイズ」へとモデルチェンジしました。
当時のカタログ表記上では、“最新モデル”のSMサイズ・LMサイズとして紹介されていたため、 従来のサイズ感のSMサイズ、LMサイズは1999年以降にカタログ上から姿を消したと考えられます。
また、モデル番号は新しいSMサイズ(現在“MM”と呼ばれているサイズ)のヴェルメイユ・ケースが「2415」、シルバー・ケースが「2416」、新しいLMサイズ(現在“GM“と呼ばれているサイズ)のヴェルメイユ・ケースが「2413」、シルバー・ケースが「2414」に変更されています。
なお2004年に後継モデル「タンクソロ」が発表されたことによってマストタンクは生産完了モデルとなり、2003年のカタログを最後に掲載が終了しますが、 2004年のクリスマス限定モデルとしてMMサイズのマストタンクが4500本限定で発売しています。
シリアルナンバーの例外と注意点
前述したシリアルナンバーの形式はあくまでも傾向であり、一部モデルや特定の限定モデルにおいては例外が存在いたします。まとめ
冒頭にてお話しした通り、マストタンクの年代識別はまだまだ研究の余地を残しています。
皆様に安心してお買い物を楽しんでいただけるよう、今後も検証を進めてまいりますので何卒よろしくお願い申し上げます。
参考文献(敬称略):
フランコ・コローニ, 「カルティエ 伝説の時計タンク」, 1997年, 263p
フランコ・コローニ, 「Cartier The Tank Watch Timeless Style」, 2012年, 215p
フランコ・コローニ, 「The Cartier Tank Watch」, 2017年, 231p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.15」, 1993年, 189p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.19」, 1994年, 219p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.23」, 1995年, 185p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.27」, 1996年, 183p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.31」, 1997年, 183p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.35」, 1998年, 201p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.40」, 1999年, 221p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.46」, 2000年, 206p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.52」, 2001年, 204p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.58」, 2002年, 219p
株式会社ワールドフォトプレス, 「世界の腕時計 No.64」, 2003年, 239p
カルティエ, 時計カタログ, 2003年, 61p
カルティエ, 時計カタログ, 2004年, 145p
株式会社シーズ・ファクトリー, 「LowBEAT No.25」, 2024年, 114p
※当記事内の掲載内容は弊社独自の調査に基づくものであり、カルティエ社および参考文献発刊元を代表するものではありません。
また、研究途上であるため掲載内容が予告なく変更される場合がございます。あらかじめご了承下さい。