記事: カルティエ マストタンク文字盤バリエーションの魅力
カルティエ マストタンク文字盤バリエーションの魅力

カルティエのウォッチを象徴するタンク・シリーズの中でも最もポピュラーな存在といえるのが、「レ・マスト・ドゥ・カルティエ」の、通称「マストタンク」です。
1917年に登場したレクタンギュラー型のケースフォルムを継承しつつ、素材や装飾を工夫することによって幅広い顧客層に受け入れられた名品で、エレガンスとミニマリズムが絶妙に溶け合うそのフォルムは、時代を超えて魅力を放ち続けています。
そして、マストタンクを語る上で欠かせないのが、その「文字盤バリエーション」の豊かさです。定番から個性派まで、多彩なフェイスが時計の表情を彩ります。
この記事では、当店が過去にお取り扱いしたマストタンクの中から、代表的な文字盤デザインや遊び心溢れるバリエーションについて詳しく解説してまいります。
マストタンクとは
マストタンクはカルティエの名作「タンク」シリーズの中でも、1976年頃に誕生しました。「must de Cartier(必ず持つべきカルティエ)」という意味が込められた新しいブランドラインから登場したこのモデルは、伝統的なタンクの美しさと親しみやすさを兼ね備えています。
ケース素材をヴェルメイユ(銀に金メッキを施したもの)にしたことで手の届きやすい価格帯を実現し、幅広い層に支持されました。
ローマンインデックス:クラシックかつアイコニックな文字盤
まず、マストタンクの象徴的な文字盤といえば、やはり「ローマンインデックス」です。
クラシックな雰囲気のローマ数字インデックス、レイルウェイ(線路)を思わせる目盛り、そしてインデックスのVII(またはX)位置に隠された「秘密の署名」が特徴です。
このクラシックなフェイスは、タンクシリーズの伝統を継承した最もアイコニックな文字盤です。
アイボリーローマン文字盤

最も定番と言えるのが、やや黄色がかったアイボリー色の文字盤にブラックのローマ数字を配したタイプです。
シンプルさと洗練が両立したこのデザインは、ビジネスシーンにもカジュアルにも上手く溶け込みます。
ブラックローマン文字盤

手巻きキャリバー期(1976年頃〜1981年頃)にしか見られないと言われているブラックローマン文字盤も、クラシックかつ精悍な雰囲気を漂わせます。
スーツスタイルにはもちろん、カジュアルなファッションのアクセントとして全体の印象を引き締めてくれます。
グレー飛びローマン文字盤

グレー色の文字盤が黒色の縁取りで彩られ、ローマンインデックスが偶数部分にのみ入れられた「飛びローマン」のデザインです。
シックかつ上品な雰囲気を漂わせる、人気の高い文字盤です。
ブラック飛びローマン文字盤

黒色の文字盤に金色の飛びローマンインデックスが映えるデザインです。
針の色も金色となっていることで色味の統一感があり、ハンサムな雰囲気を漂わせます。
シャンパン飛びローマン文字盤

シャンパン色の文字盤に飛びローマンインデックスが配されたデザインです。
上品かつクラシックな出で立ちで、ビジネスにもカジュアルにもお召しいただけます。
シルバー飛びローマン文字盤

シルバー色の文字盤に飛びローマンインデックスが配されたデザインです。
シャンパン飛びローマンと同様に、上品かつクラシックな出で立ちで、ビジネスにもカジュアルにもお召しいただける人気のダイアルです。
センターグレー飛びローマン文字盤

白色と基調としつつ、文字盤の中心部分がグレー色に塗られた飛びローマンのデザインです。
実はマストタンクには白系の文字盤デザインが少ないため、そのデザインの良さと視認性の高さから人気のあるダイアルです。
オパラン文字盤

フランス語で「オパール=真珠」を意味するオパラン文字盤は、特に人気の高いダイアル・デザインです。
パールホワイト調の文字盤カラーに立体的なローマンインデックスが配されており、男女問わず高い人気を誇っています。
ホワイトローマン文字盤

1985年頃から、銀にロジウムメッキを施したシルバー色のマストタンクが登場します。
Ref.ナンバーも異なるこの銀色のマストタンクには、白色を基調とした文字盤に青色のローマンインデックスが採用されました。
ゴールド色のマストタンクにはアイボリーローマン、シルバー色のマストタンクにはホワイトローマン、というように、1980年代半ば以降のマストタンクにとって新たな定番として高い人気を誇っています。
ストレートローマン文字盤

縦向きのローマンインデックスが配されたこの文字盤は、1920年代の置き時計からインスピレーションを得たデザインと言われています。
4時位置のローマ数字表記が「IIII」ではなく「IV」となっている点は、カルティエの腕時計の中でも大変珍しいディテールと言えます。
ホワイト飛びローマン文字盤

後期マストタンクに見られるダイアル・デザインで、偶数位置のローマンインデックスと、文字盤中心部分に入れられたカルティエのエンブレムが特徴の文字盤です。
生産年式が短いため、流通数の少ない稀少なダイアルです。
ホワイト飛びローマン文字盤(ブルーインデックス)

後期マストタンクに見られるダイアル・デザインで、偶数位置のローマンインデックスと、文字盤中心部分に入れられたカルティエのエンブレムが特徴の文字盤です。
シルバー色のケースには青色のインデックスが組み合わされていました。
生産年式が短いため、流通数の少ない稀少なダイアルです。
ピンクローマン文字盤

2000年代にクリスマス限定で発売された稀少な文字盤です。当時MMサイズのみでの展開でした。
シルバーローマン文字盤

2000年代にクリスマス限定で発売された稀少な文字盤です。当時MMサイズのみでの展開でした。
シルバーローマン文字盤(現行モデル)

現行モデル「タンクマスト」の文字盤デザインです。角度によってキラキラとした質感に見えるメタリック系のカラーで、タンクシリーズの伝統を現代に継承しています。
アラビアインデックス:カジュアルな魅力と希少性のある文字盤
カルティエの時計の中でも、アラビア数字を採用した文字盤は珍しく希少性があります。
ローマ数字のインデックスと比較するとポップな印象を感じさせるとともに視認性が高く、カジュアルなスタイルにも完璧に調和してくれます。
アラビア文字盤

カルティエの腕時計の中でも珍しい、アラビア数字を配した文字盤です。
視認性が高く、どこかポップな印象を受けるこのダイアル・デザインは、カジュアルな装いとも完璧な親和性を見せる人気の高い文字盤です。
飛びアラビア文字盤

偶数位置にアラビア数字が入れられた文字盤です。
透かしロゴとしてカルティエのエンブレムが多数入れられた上品な印象のダイアル・デザインとなっています。
テレフォンアラビア文字盤

後期マストタンクに見られるダイアル・デザインで、レトロな電話機を想起させるポップな印象の文字盤です。
生産年式が短いため、流通数の少ない稀少なダイアルです。
アプライトアラビア&くさび形インデックス文字盤

1990年代に500本のみ発売された稀少な文字盤です。
12時位置と6時位置のアラビア数字はアプライト仕様となっており、1950年代の時計デザインからインスピレーションを得たくさび形のインデックスが大変珍しいモデルです。
ノーインデックス:カラフルなバリエーションを楽しめる文字盤
定番のローマンインデックス文字盤と併せて語られるべきは、インデックスのないカラーダイアルのバリエーションです。
主に手巻きキャリバー期(1976年頃〜1981年頃)に見られますが、ごく初期のクォーツキャリバー期にも存在しています。
オニキス文字盤

シックな印象のオニキス文字盤は、控えめながらも削ぎ落とした美しさに存在感があります。
フォーマル性の高いドレスウォッチとして活躍してくれると同時に、敢えてデニム等と合わせたカジュアルなファッションでも腕元を引き立ててくれます。
ラピスラズリ文字盤

深い青色のカラーに、散りばめられた星のようなゴールドの塗料が映えるラピスラズリ文字盤は、知的で上品な印象。
同系色の青系の革ベルトを合わせれば、コーディネートの核となる華やかなワンポイントとなります。
マホガニー文字盤

木目のような模様が塗料で表現されたマホガニー文字盤は、色味も含めて模様に個体差があり、一期一会の出会いを楽しませてくれます。
入荷数の少ない稀少な文字盤であるため、気に入った模様との出会いはまさしく一期一会と言えます。
アイボリー文字盤

アイボリーローマン文字盤からローマンインデックスを取り除いたかのようなフェイスが特徴的な文字盤です。
特に入荷数が少なく、人とは一味違うものを求める方にお薦めしたいレア・ダイアルです。
コーラル文字盤

珊瑚のような、ややピンクがかった濃いオレンジ色の文字盤です。後述するボルドー文字盤とよく似ていますが、並べてみれば違いは一目瞭然です。
特に入荷数が少なく、人とは一味違うものを求める方にお薦めしたいレア・ダイアルです。
ボルドー文字盤

情熱的な深い赤色のボルドー文字盤は、カルティエを代表するカラーでありエレガンスと大胆さが共存するデザインです。
ゴールドケースとの相性も抜群で、コーディネートのアクセントとして腕元で存在感を放ちます。
アートと遊び心溢れる文字盤
そのほかにもカルティエの伝統にアートや遊び心を融合させた多様なバリエーションの文字盤があります。
ルイ・カルティエ発案のスリーゴールド・モチーフを踏襲した「トリニティ」、文字盤から放射状に装飾が施された「サンレイ」、金属線でインデックスを象る「クロワゾネ」など、カルティエならではと言える美意識が光ります。
また、アールデコ調の限定モデルや日本限定モデルといった稀少なダイアルも存在し、個性を際立たせるアートピースとしてコレクションに多様な表情を加えます。
トリニティ文字盤
スクエアトリニティ文字盤

1924年にルイ・カルティエが発案したカルティエの伝統的なモチーフ、「トリニティ」の配色を文字盤デザインに落とし込んだダイアルです。1980年に登場したと言われています。
手巻きキャリバー期のトリニティ・モチーフには、こちらの四角型以外にも縦型ストライプのデザインが存在しています。
フロントトリニティ文字盤

文字盤の中心部分にトリニティ・モチーフを取り入れた人気の高いダイアル・デザインです。
見る角度によってスリーゴールド・カラーがキラキラとして見え、腕元に華やかさを添えてくれる文字盤です。
サイドトリニティ文字盤

前述したオパラン文字盤と並び人気が高いのが、クォーツキャリバー期のサイドトリニティ文字盤です。
白色を基調とした文字盤にカルティエを代表するトリニティ・モチーフが落とし込まれており、12時位置と6時位置に入れられたローマンインデックスも存在感がありつつ上品な印象にまとまっています。
サンレイ文字盤

文字盤の中心から放射状に装飾が施されたサンレイ文字盤は1980年に登場したと言われており、流通数の少ない稀少な文字盤です。
見る角度によって表情を変えるデザインの妙は、まさしくジュエラーたるカルティエのインスピレーションの発露を感じさせてくれます。
アイボリークロワゾネ文字盤

「クロワゾネ」は1985年から登場したと言われている文字盤デザインです。
金属線で作られた枠がインデックスの役割を果たしており、文字盤の中心下部にはカルティエのエンブレムが入れられています。
特に入荷数が少なく、人とは一味違うものを求める方にお薦めしたいレア・ダイアルです。
ボルドークロワゾネ文字盤

前述したアイボリークロワゾネと同様に、金属線で作られた枠がインデックスの役割を果たしており、文字盤の中心下部にはカルティエのエンブレムが入れられています。
特に入荷数が少なく、人とは一味違うものを求める方にお薦めしたいレア・ダイアルです。
アールデコ文字盤

1990年代に1000本のみ発売された稀少な文字盤です。
アールデコ調の幾何学的なデザインが特徴的で、コレクターズ・アイテムとしても大変高い人気を誇っています。
ゴールドセクター文字盤

1990年代に日本限定で500本のみ発売された稀少な文字盤です。
文字盤の「3」と「9」が横向きに倒れたインデックスはアールデコを想わせるクラシックな出で立ちで、光沢のあるゴールド色の部分と、梨地仕上げのようにマットな質感のクリーム・ホワイトの部分、そして青色の針が美しいコントラストを演出した大変珍しいモデルです。
まとめ
カルティエ マストタンクは、伝統と遊び心が融合した傑作です。
文字盤のバリエーションは、時計を単なる時間を知る道具から、個性や美意識を表現するアートピースへと昇華させています。
あなた自身のスタイルや価値観にぴったり合った文字盤をお探しになり、日々のコーディネートに華やぎと喜びを添えてみてはいかがでしょうか。
ANTIQURIOUSでは、カルティエ マストタンクを多数お取り扱いしています。
素敵な一本を見つけていただくお手伝いができましたら幸いです。
参考文献(敬称略):フランコ・コローニ, 「カルティエ 伝説の時計タンク」, 1997年, 263p